チャップリンと木の下で
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御手洗シリーズ備忘録 その3
2008/04/04 (Fri)
Category : My Favarite Books

島田荘司さんはかっこよかった。
大変ジェントルマンでダンディなおじさまでした。


『ネジ式ザゼツキー』

2003年に出版されたということで、御手洗潔ももう50代。
若い頃の変人ぶりはどこへやら?な感じだったけれど・・・。

記憶喪失の男が、スウェーデンの脳科学者御手洗教授のもとに『タンジール蜜柑共和国への帰還』という自作の本を持って現れる。その奇妙なファンタジーの中に散りばめられている記憶のかけらから、御手洗教授が男の人生の空白の謎を解明する。そして皆の目の前にあらわれたのは、あまりに哀しく衝撃的な事実だった。ひとつの偶然とひとりのある想いが引き起こしたこの事件は、奥に行けば行くほど「誰かの誰かへの想い」が複雑に絡み合った事件だった。

それぞれの「正義」を主張するために、はるか昔から争いを繰り返す人間はこれからどこへ向かうのだろうか・・・。今あるこの世界は、あまりにも多くの犠牲や悲しみの上にあるんだな。
ほんと、島田先生の本は痛い。痛いけれど、これは知っておかなければならない痛み。

脳の話はとても興味深く、難しいところもあるけれど一気に読めました。
時代が時代だけに、インターネットや電話を駆使して研究室内で御手洗さんは謎を解いちゃいます。
普通ならこういう設定だと途中で飽きてしまいそうですが、無駄っぽいところもなく早く次へ次へと読めるところがすごい。

正直途中のグロイ描写がきつかったけど、これは人間が実際に同じ人間に対して行ってきた愚行そのものなんだろう。私が知らなかっただけで。知らないということもまた罪だ。



  

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御手洗シリーズ備忘録 その2
2008/03/27 (Thu)
Category : My Favarite Books

『眩暈』

『ぼくのまわりのなにもかもが、どくでよごれています・・・』

という大きなひらがなだけで書かれた奇妙な手記から始まる。
死体を組み合わせて両性具有者を作り出したり、外の世界が突然世界の終わりのような光景に一変したり、と精神異常者の手で書かれたものとしか思えない文章をきわめて論理的だと解釈し、御手洗潔が鮮やかに謎を解き明かす様は見事。

自分のすべての物事に対する見方がいかに狭いものかということに気付かされる。
終始広がる幻想世界に迷い込んだかのようで、この世界観に酔う。
何度も自分の視点をひっくり返され、そのトリックのスケールもかなり大きなものになってます。ひとつの悲しい事件を覆うこの幻想性が、謎をさらに広げてそして深めているような。

そして、豊かさと引き換えに人間たちが失ったもの、犠牲にしたものに対する作者の深い想いを感じる作品でもありました。この世界の隠れたところ、または隠されたところにこそ、想像を絶する深い悲しみがいつの時代にも存在しているということを感じる。

事件の真相が、トリックによって真実とは一見まったく違って見えるように、深い痛みや悲しみほど見えないベールに覆われているのかもしれない。



『水晶のピラミッド』

古代エジプトの悲恋、タイタニック沈没、アメリカ・ビッチポイントなど時空を超えたいくつかのストーリーを展開しながらひとつの世界観が出来上がっていく。それぞれの物語がとても興味深く、それらが事件に繋がっていくから面白い。この作品が取り扱うテーマ自体も「文明の死」というとても大きなものです。

アメリカ・ビッチポイントにある学者によって作られたピラミッドで起こった事件を中心に物語は展開しますが、今回もとてつもなく大掛かり(笑)謎解きどころか、ただただスケールのでかさに驚かされるばかり。そして、ラストのラストでさらに驚愕・・・。

正直トリックなどは何がなんだか分からなくなってくるけれど、どんなに大風呂敷を広げても最後にはちゃんと人間を人間として描いている気がするのです。
本格ミステリなんだけど、読後のいつも感じるこの切なさは何だろう?と考えた時に『眩暈』のレビューにも書いたように、そこには気付かれることのない痛みや悲しみに対する作者の想いが込められているからなのかなと思います。

ピラミッドの謎について語られている部分もとても興味深い。
そして、スキューバやエジプト旅行を疑似体験までできる。臨場感(?)あるんですこれが。
御手洗シリーズの中では多少物議をかもし出している作品と聞きますが、作者がひとつのところにとどまることなく作品ごとに色んな試みをしているような感じが私は好きです。

カフェで4時間読み続けてもあまり進まない程、私にとっては少し難解で分厚い本だったけど(笑)






  

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〜島田荘司の御手洗シリーズ備忘録〜
2008/03/15 (Sat)
Category : My Favarite Books

『占星術殺人事件』

島田荘司デビュー作。
本格ミステリの中では常に名前が挙がる程有名な本書。
私は残念なことに、全く同じトリックが使われている某少年の事件簿の方を先に読んでしまっていたので、読む前からトリックはネタバレしていました。無念。ほんとに無念・・・何も知らずに読んでいたらどれほど感動が大きかっただろうと思うばかり。ああ無常。意味不明。
でもネタバレしていても後半の展開にはぐぐっと引き込まれ、一気読みしちゃう程。
途中から舞台が京都に移るので、情景を思い浮かべながら読めたのもまた楽しかった。
特に犯人と会う場面はドラマティックで感動すら覚えます。
ストーリー、トリック、人間心理、御手洗潔・・・この本には楽しめる要素がたくさん詰まってました。
最初に小難しい手記があるけれど、このしんどさをかるーく飛び越える感動が読後にはありました。


『斜め屋敷の犯罪』

御手洗シリーズ二作目。
北海道の宗谷岬にある斜め屋敷が舞台となった館もの。
最初の方は、正直「ありきたりやなこの展開」と思いながらなんとはなしに読み進めてました。
館に招かれた客が密室で殺され、あれやこれやの間にまたもうひとつの密室殺人が起こる。
御手洗ファンの私的には、彼が後半1/3くらいまで出てこないのでまだかまだかと思いながら若干イライラしながら読んでしまいました。でもやっぱり後半の展開のすばらしさはさすが。
もはや芸術とも言えるほど緻密で壮大なトリック、犯罪にいたるまでの犯人の人生や心理などが心にしっかり残るものだった。御手洗さんのさらっという一言にはいつも感銘を受けます。


『暗闇坂の人喰いの木』

物語全体に漂うおどろおどろしいけどどこか幻想的な雰囲気がとても好み。
読みながら背筋が凍る・・・いやいやほんと、処刑の歴史を絵&写真付きで淡々と語られた時は本当にページを読み飛ばそうかと思った(笑)この本には怖いけどそれ以上の好奇心を駆り立てる何かが確かにあります。だからやめたくてもやめたれない。
トリックもいつもどおり奇想天外だけど、今回のはいつも以上に突飛というかどこまでも不可解(笑)
書評でよく「トリックがあまりにも偶然にたよりすぎている部分が多い」と批判を受けているけれど、私的にはその偶然ですらミステリアスでぞくぞくするので楽しめるところでした。
偶然ですら何かの因縁によって必然的に起こるような気になってきます。
好き嫌いはかなり分かれる一冊だと思うけど、この作品はこうでなくちゃ!というこだわりが私にはあまりないというのと、乱歩的なおどろおどろしい雰囲気が好きなのでかなりいい感じで味わえた作品。
時々挟まれる昔のエピソードの語り口調がなんとも不気味。
ラストの博物館めぐり(?)はもうなんとも言えない生々しい狂気。


『御手洗潔の挨拶』

短編集。短編は御手洗潔の素敵さが際立ってます。
トリックなどは長編の満足感は味わえないけれど、気軽に読めて御手洗さんの魅力満載。
特に『数字錠』は短編の中でも人気の高い作品みたいです。涙を誘う・・・。誘われた・・・。
短編は遊び心があって、これはこれでまたいいなぁーと思う。御手洗ファンは必読。


『御手洗潔のダンス』

これも短編集。『御手洗潔の挨拶』よりさらに御手洗マニアック度アップ。
短編だけど、社会に対するメッセージ的なものや人間社会の問題点など作者の思いのようなものが読み取れる気がする。『舞踏病』はその点でもとても印象的。
『近況報告』では事件ではなく石岡くんと御手洗さんの日常が面白く描かれている。
つくづく島田荘司さんの作り出したキャラクターや世界観の素敵さに感動します。
そして、DNAについての御手洗さんの講義(?)はものすごく興味深い。
DNAを書き換えることってできるんだ・・・というかDNAによってすべて決定されているのかもしれないというところにもなんとも科学を超えた神秘性を感じる。

  

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ゴールデンスランバー
2008/01/28 (Mon)
Category : My Favarite Books



一部ネタバレありかもしれません。
これから読む人はスルッと通りすぎてみてください。


ラジコンヘリによる首相暗殺の濡れ衣を着せられた青柳。
久しぶりに会った旧友に「巨大な陰謀に巻き込まれている。逃げろ!オズワルドにされるぞ。」と言われ、正体の分からない敵から逃げ続けることに。
あまりに深い絶望と恐怖の闇の中、誰が見方で誰が敵・・・?
果たして青柳は逃げ切れるのか・・・?


ドキドキした。
『オーデュボンの祈り』を読んだ時と同じく、ページをめくる手が止まらない。
本を読んでいるというよりは、もう本の中の世界に自分も入り込んでいたようなそんな感じ。

伊坂さんの本の登場人物は、からっとしてるけどあたたかい人や絶対出会いたくないような冷酷な人、どこかで出会ったことのあるような人など、とても印象に残る人物が多い。
伊坂幸太郎という人は、人をすごくよく見ていて人が好きな人なんだろうな〜と思う。
良くも悪くも人間らしい人間、ちゃんと本の中で生き生きと存在している人物ばかりだ。


青柳雅春が、巨大な陰謀に巻き込まれながらもどうにか生きていられたのは、信じてくれる人がいたから。どんな情報にも圧倒的大多数の周りにも流されることなく、「青柳雅春」という人間を信じてくれる人。この世にいなくなってからも、時々青柳雅春の心の中に響く友人の言葉がなんだかじんわりきました。
人間って脆いけどけっこうタフなのかもしれない。信じてくれる人がいるだけで、大きなものにも立ち向かうことができるというのはあるかもしれないと思うから。


今回は敵が見えなくてとてつもなく巨大なだけに本当にぞっとした。
知らないだけでこの世にはたくさんあるんだろうな・・・情報によって操作されてることや、思い込まされてることって。

なんか読みながら、映画『トゥルーマンショー』を思い出した。
なんかあの映画を観た時の怖さに似てた。


そして、その恐怖感はじんわりあたたかい余韻とともにまだ残ってます。






















   THEME : 文学・小説 - GENRE : 小説・文学

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虚無への供物
2007/10/19 (Fri)
Category : My Favarite Books





小栗虫太郎『黒死館殺人事件』、夢野久作『ドグラ・マグラ』と共に日本の「三大奇書」の中のひとつに挙げられている中井英夫の『虚無への供物』

アンチミステリーという言葉に好奇心を刺激されて、手にとってみた一冊。
妖美な幻想的世界観の虜になり悠々と読んでると、最後に一気に現実と非現実をひっくり返されました。
「本格物最後の墓碑銘」とまで絶賛される本作は、ミステリとか小説とかそういうカテゴリを越えて、自分自身の存在とか価値観とかをすべて震撼させるものすごいものが込められているような気がして恐ろしくもあった。ホントにある意味怖い。

だって・・・いきなりこっちを見て語りかけてくるんだもん(笑)


〜あらすじ〜
昭和29年の洞爺丸沈没事故で両親を失った蒼司・紅司兄弟、従弟の藍司らのいる氷沼家に、さらなる不幸が襲う。密室状態の風呂場で紅司が死んだ。そして叔父の橙二郎もガスで絶命。事故か事件か?
駆け出し歌手・奈々村久生らの推理合戦が始まった。
そんな推理合戦をあざ笑うかのように、推理すればするほどどこまでも深まる謎。
妖しい光に彩られた4つの密室殺人は終章の悲劇の完成と共に、現実と非現実の倒錯する闇の世界へ読者を導く・・・


アンチミステリーとはいうものの、本格的推理小説的な謎解きも十分味わえるような気がするのですが、ただ・・・その本格推理小説的な部分はあまりに衝撃的なラストのための前座に過ぎないのでしょうか。前座というよりは、読み手に対する挑発というか愚かしさを知らしめるための道具に過ぎなかったのでしょうか・・・。

ラストの「独白」で物語の真実が明らかになるものの、読み手である私の中の真実は一気に揺るがされ、困惑し、すべてのものの常識と非常識の境界線が分からなくなった。
そのときはもう本を読んでいる感覚ではなく、ただただ突きつけられた疑問に答えることもできず放心状態(笑)なんなんだこれは!!!


こんな感覚になったのは初めてでした。
ただ、けっこう昔に書かれた本で独特の文体なため、読みやすいとは言えない&好き嫌いが激しく分かれる本だと思われます。


私の中では・・・いまだ、この本の衝撃を超えるものなし。


















   THEME : 紹介したい本 - GENRE : 本・雑誌

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